顔出し不要、でも本音が伝わる。“手”で語る動画の力

これまで企業動画では、社員の顔や言葉を前面に押し出すことで「人となり」を伝えることが主流でした。しかし今、あえて顔を映さず、「手」だけにフォーカスする動画があります。キーボードを打つ指、工具を握る手、盛り付ける動き。視聴者は、表情のない映像からも、その人の集中、緊張、熟練といった空気を感じ取っています。これは、感情を押しつけず“観る人に委ねる余白”があるからこそ生まれる伝達です。

なぜ「手元」が説得力を持つのか?

手の動きには「慣れ」と「迷い」がそのまま出ます。つまり、どれだけその仕事に向き合ってきたかが可視化される部位でもあるのです。たとえば、医療現場で注射器を扱う手、配線を整えるエンジニアの手、カフェでラテアートを描くバリスタの手。これらは台本では再現できない、経験の蓄積そのものです。情報を過剰に語らずとも、リアリティが画面から自然と伝わる。それが「手元動画」が支持される理由です。

 “顔出しNG”時代の新たな表現方法

プライバシー意識の高まりや、社員本人の「顔を出すことへの抵抗」も、背景にあります。だからといって、動画による企業ブランディングを諦めるのはもったいない。「手元だけを映す動画」は、被写体の負担を減らしながら、職種の魅力や空気感を伝える新しい選択肢です。図のように、顔を出す動画と比べて撮影の心理的ハードルも下がるため、現場のリアルな声を集めやすくなります。

【図:動画スタイル別・出演者の心理的ハードル】

表現方法 撮影負担 本音の引き出しやすさ
顔出し動画 高い やや難しい
ナレーション動画 中程度 中程度
手元だけ動画 低い 非常に引き出しやすい

共感を呼ぶのは「うまさ」ではなく「想い」

スムーズな手さばきだけが魅力ではありません。むしろ、少しぎこちなさの残る動き、慎重さ、ためらいこそが、動画を見る人の心を動かします。「この人も、迷いながらやっているんだ」「丁寧に向き合っているんだ」という気配が、受け手に伝わるのです。テキストやナレーションでは補えない“身体の語り”が、今の時代の信頼感につながっています。

実践アイデア:60秒の「手の記録動画」

では、どのような動画が企業にとって効果的でしょうか。たとえば「今日の1作業だけを映す60秒」。社員一人ひとりに、作業の一部を撮ってもらい、その動画をつなぎ合わせる形式です。映像に音楽やナレーションを加える必要はありません。キーボードの音、工具の金属音、食材を切る音…仕事の音だけで充分です。それだけで、その職場に流れる時間と集中の空気が伝わります。

顔を出さずに、企業のリアルを伝える。そんなニーズの中で、「手元」にフォーカスした動画があります。手の動きは、スキルや習熟度、さらにはその人の思いまでも映し出す鏡です。社員の心理的負担も少なく、現場の日常を切り取る手段として非常に有効です。特別な編集技術や演出ではなく、“手の記録”から始める映像表現。これが、今後の企業動画の新しいスタンダードになるかもしれません。

動画は「習慣」になる時代へ|毎朝視聴される動画戦略

朝の時間帯は、視聴者の頭がクリアで判断力が高く、ルーティンが固定化されやすい貴重な時間です。SNSやYouTubeの分析でも「朝6〜8時に一定の再生数を維持している動画」は、長期的に視聴維持率が高い傾向があります。これは、習慣的に再生されている証拠。多くの人が、通勤や朝食、準備中など「ながら視聴」をする時間でもあり、企業にとっては“固定視聴”を獲得できる戦略的なタイミングです。

習慣化するコンテンツの特徴とは?

図:習慣化される動画コンテンツの構成要素(例)

要素 内容例
時間の一貫性 毎日同じ時間に投稿される
フォーマット 構成が毎回ほぼ同じ
短尺 1〜3分以内で終わる
音・リズム 印象に残るBGMやオープニング音声
繰り返し性 日々の更新に小さな変化を入れる

視聴者は“安心できる反復”に対して好意的であり、構成や音が似通っていると、記憶にも残りやすくなります。

朝のルーティーンに入り込む動画の条件

朝時間に適した動画には共通点があります。それは「シンプル・スムーズ・気持ちいい」の3要素。具体的には以下の通りです。

  • 情報量を詰め込みすぎず、要点だけを伝える
  • 視覚的に動きが多すぎず、落ち着いたテンポ
  • 無理にテンションを上げず、自然な語り口や音楽

朝は“気持ちよく1日を始めたい”という心理が働くため、感情を刺激するよりも「穏やかな伴走者」のような存在であることが理想です。

実際に使われている形式や工夫

企業の取り組みで実際に見られるのは、以下のような形式です。

  • 朝のひとこと+3行日報的ナレーション
  • 社内風景を切り取ったBGM動画(60秒)
  • 「今日の予定」や「プロダクトの一言説明」など定型フォーマット

また、YouTube ShortsやInstagramリールなど“スワイプで次へ”が前提のプラットフォームでは、「冒頭0.5秒でリズムがつかめる構成」や「背景が毎日少しだけ違う」といった“変化の中の一貫性”がポイントになっています。

 “記憶に残る”動画の作り方と注意点

最後に、定着型コンテンツで気をつけたいのが「飽きとの戦い」です。同じ構成でも、小さな変化や進化を加え続けることで、飽きさせず、かつ習慣性を維持できます。以下のような工夫が有効です。

  • 週ごとにテーマを変える
  • 視聴者からコメントや質問を募る
  • 特定曜日にだけ“スペシャル要素”を入れる

「毎朝、なんとなく見てしまう」状態を保つには、“ちょっとした変化”が最大の仕掛けになります。

動画を「見てもらう」から「生活の一部にする」ためには、朝という時間帯を活用するのが有効です。一貫したフォーマット、記憶に残る音、そして穏やかなテンポ。それらを毎朝届けることで、企業やブランドが“親しみやすい存在”として定着していきます。ポイントは、目立つより“寄り添う”動画。小さく、確実に視聴者の生活に入り込む戦略が、これからの動画活用の鍵となるでしょう。

ルーティン動画で再発見されるジャパニーズ・カルチャー

TikTokやYouTube Shortsでは、「#JapanRoutine」や「#JapaneseLife」のように、“日常の一部”を切り取った動画が人気を集めています。華やかな観光地や歴史よりも、「朝の味噌汁づくり」「玄関で靴を脱ぐ動作」「弁当を詰める手元」など、暮らしのリアルな一コマが再生回数を稼いでいます。これは、文化を“体験”ではなく“継続する生活”として見せるアプローチ。
ポイントは【珍しさ × 親しみ】のバランスです。

「文化」ではなく「習慣」を見せる発想

日本文化を紹介しようとすると、つい「伝統」や「歴史」を語りたくなります。しかし、海外でウケているのは「動作」や「選択」などの“習慣的な細部”。
たとえば、

動画内容 再生数傾向
着物の着付け 中程度(文化重視)
出勤前にごはんを炊く 高い(習慣重視)
靴を脱ぐ玄関のルール 非常に高い(身近な文化)

このように、知識ではなく“行動の積み重ね”としての文化を見せることで、共感と関心を同時に引き出しています。

「再編集された日本文化」の意味

近年注目されているのは、“いかにも”和風ではなく、「いまの日本人の当たり前」を切り取る視点です。たとえばコンビニでのおにぎり購入や、駅の改札を通るときの所作。
これらを通じて、視聴者は“現代の文化”としての日本を理解します。編集ではBGMやテロップを抑え、淡々とした進行が好まれる傾向にあります。

企業が活用する際のポイント

自社のカルチャーを発信したい企業にとっても、この手法は有効です。社員の出勤ルート、昼食風景、ちょっとした雑談や掃除の様子まで、「社風=生活の断片」であることを伝えることができます。
特に地方や地域密着型企業では、地元の景色や食文化を交えた動画が、リアリティと温かみを兼ね備えた魅力になるでしょう。

“文化を伝える”というと大げさに聞こえますが、海外ではむしろ「何気ない習慣」の方が強い関心を呼びます。特別な行事や演出よりも、「いつもの朝」「毎日のごはん」をそのまま見せることで、リアルなジャパニーズ・カルチャーを再編集し、ファンをつくることが可能です。
生活感の中に文化がある——この視点こそ、次の動画戦略の鍵となるでしょう。

 

 

心を整える60秒。スローライフ映像が癒しになる時代

一見、退屈とも思えるような「何も起きない動画」が、YouTubeやTikTokで数十万再生を記録しています。焚き火のゆらめき、静かな料理風景、山小屋での朝のルーティン。これらは“スローライフ系動画”と呼ばれ、都市部の若者層を中心に根強い人気を集めています。

この現象の背景には、情報過多と過密スケジュールに疲れた現代人の「デジタル疲れ」があります。短時間で刺激的な情報を詰め込むショート動画の対極にある、“余白のある映像”が癒しとして機能しているのです。

スローライフ映像が都市部で求められる構造的理由

特に20代〜30代の都市部在住者は、仕事・SNS・生活全般において「常に何かをしている」状態にあります。そんな人々にとって、田舎の風景や静かな日常を映す動画は、「やらなくていい時間」の象徴になります。

また、自分がその場に行けない代わりに、動画を通じて“あたかもそこにいるかのような”感覚を得られることが、癒しとしての機能を強めています。

BGMではなく“生活音”が魅力をつくる

多くのスローライフ動画には、音楽すら存在しません。代わりに入っているのは、湯が沸く音、木々のざわめき、朝の食器のカチャカチャという音。それらが脳に“リアル”を与え、視覚だけでなく感覚全体に働きかけます。

下記のように、映像ジャンル別の“音の効果”を図にまとめると、その特異性が見えてきます。

映像のジャンル 音の役割
プロモーション系 情報伝達・感情歓喜
Vlog パーソナリティ演出
スローライフ系 空気感・生活質感

音が「演出」ではなく「生活そのもの」である点が、スローライフ動画の魅力です。

「共感」ではなく「回避」のために視聴される動画

企業動画は“共感”を生むことがゴールになることが多いですが、スローライフ動画の視聴理由は少し違います。それは、「現実から少し離れたい」という無意識的な“逃避”です。

つまり、感情の共有というよりも、「自分がいない世界をのぞく」ことに価値がある。この違いを理解することで、企業が取り入れる映像表現も変化していくかもしれません。

企業動画におけるスローライフ的アプローチとは?

では、ビジネスにおいてもこうした映像の空気感を活用できるでしょうか?答えはYESです。
たとえば:

  • 地方拠点の風景や自然環境を活かしたリクルート動画
  • 工場や職場の“静かなルーティン”を淡々と映す紹介映像
  • 「働く社員の休憩時間」をテーマにしたショートムービー

これらは直接的なPRではなく、視聴者に“無言の理解”を促す動画になります。数字や言葉ではなく、雰囲気や空気で伝える発信が、企業と若者との接点になりつつあります。

スローライフ系動画の人気は、ただの癒しブームではなく、都市部の若者が感じている「情報や時間の圧」に対する自然な反応です。視覚だけでなく、聴覚や感覚に働きかける静かな映像は、心をリセットする装置として機能しています。
企業がこの“映像の余白”をうまく取り入れることで、より静かで深い共鳴を生む動画表現が可能になるでしょう。

ランディングページに動画を入れるメリット

ランディングページ(LP)への動画を導入することがあります。
理由の一つは、従来のテキスト中心のLPでは「情報過多」と「読み飛ばし」が起きやすいからです。
特にスマートフォンでの閲覧が主流となった今、ユーザーの滞在時間が短くなり、即時理解が求められる構造に変化しています。
動画は、短時間で商品やサービスの価値を直感的に伝える手段として、非常に相性が良いのです。

動画がもたらす効果とは?文章と画像では届かない領域

テキストや写真では伝えきれない“空気感”や“ニュアンス”は、動画の得意分野です。
以下の表をご覧ください。

情報伝達手段 訴求力 理解スピード 感情訴求の強さ
テキスト 遅い 弱い
画像
動画 早い 強い

特に、サービスの使い方、商品の利用シーン、スタッフの雰囲気などは動画で伝えると圧倒的に効果的です。
加えて、ユーザーは「無音でも意味が分かる動画」であればスクロールを止めやすくなります。

どこに・どんな動画を入れるべきか?配置と構成の考え方

動画を入れる位置は、「ファーストビュー直下」か「CVボタンの直前」が定番です。
前者は第一印象を強化する目的、後者は最後のひと押しに機能します。

また、動画のタイプは目的によって変える必要があります。

  • サービス紹介:30〜60秒で概要を伝えるモーショングラフィック
  • 商品使用例:リアルな利用風景を映した実写動画
  • お客様の声:短めのインタビュー編集
  • 会社紹介:採用にも転用できるコーポレート動画

「誰に、何を、どう伝えるか」を動画だけで完結させるのではなく、LPの流れに組み込む意識が重要です。

実際に使われている動画活用例(業種別)

  • SaaS系企業:機能説明をアニメーションで見せ、サポート体制も簡潔に伝える
  • 住宅・不動産:バーチャル内覧動画で物件の魅力を体験させる
  • 人材紹介・派遣:仕事紹介と同時に職場の雰囲気を伝える現場映像
  • 飲食・小売業:店舗の雰囲気や調理の様子を見せることで信頼につなげる

いずれも「文章で補足できない体験」を伝えている点が共通しています。

動画導入前に確認すべき注意点とチェックリスト

動画を入れる際に注意すべきポイントは以下の通りです:

  • 読み込み速度の低下を防ぐため、軽量化(MP4・WebM)を意識
  • 自動再生は音声なしで、ユーザーに操作権を与える構成に
  • 動画が「LP全体の流れ」を阻害していないかをチェック
  • スマホ表示時の最適化(縦長やレスポンシブ化)

特に「動画が目立ちすぎて他の要素を邪魔してしまう」という失敗も多いため、配置には戦略が必要です。

ランディングページに動画を取り入れることで、訴求力を高めることが可能になります。
特にユーザーの離脱が早い現代において、動画は「瞬時に理解されるためのツール」として有効です。
ただし、ただ入れるだけでは意味がなく、構成との一体感、目的に応じた内容、ページ全体とのバランスが求められます。
軽量化やスマホ最適化などの技術的な配慮も忘れず、成果を上げるLP設計を心がけましょう。

インフォグラフィックは古くない。データ重視時代の説得力

インフォグラフィックは一度、SNS投稿やプレゼン資料の定番として広まりました。以前との違いは「形式の進化」にあります。静止画中心だった表現は、今や動画やWebアニメーションに広がり、数字や図が“動きながら理解できる”という新たな役割を持ち始めています。

なぜインフォグラフィックが見直されているのか?

背景にあるのは、情報への信頼性の重視です。SNSや広告での“感情的アピール”が飽和する一方、ユーザーは「根拠となる数字」に敏感になっています。特にB to B領域では、信頼性ある情報を“ひと目で理解できる”表現が求められ、インフォグラフィックが評価されています。

要素 期待される効果
グラフの可視化 説得力と情報の伝達スピードの向上
データの整理 混乱を防ぎ、印象的に残す

動画×インフォグラフィックが生む説得力

インフォグラフィック動画とは、棒グラフや円グラフなどの要素がアニメーションで展開する解説型コンテンツです。営業資料やIR動画などで使われており、ナレーションと動きで視覚と聴覚に訴えながら、複雑なデータを直感的に理解させる効果があります。例えば「前年比120%の成長」も、数値だけでなく“伸びるグラフ”で見せることで、記憶に残りやすくなります。

静的な資料との比較で見える“差”

従来のPDF資料やプレゼンでは、静止画のグラフが中心でした。しかし、視聴者はスライドを“流し見”する傾向があります。対して、アニメーション化されたインフォグラフィックでは、動きがあるため注意が引きつけられ、「どこを見ればいいか」が明確になります。とくにリモート商談が増えた今、動画での訴求力は無視できません。

今後の展開と制作のポイント

今後の動画マーケティングでは、「ビジュアル+データ」の融合が鍵になります。図解はシンプルに、動きはゆっくりと。ナレーションと合わせて「なぜこの数字が重要なのか」まで語れる設計が理想です。また、テンプレートではなく、その企業のトーンに合ったカラーや図の構成が求められています。

情報の信頼性が重視される今だからこそ、“数字で伝える力”が求められているからです。とくに動画との掛け合わせにより、静的な資料では伝えきれなかった説得力が加わり、商談やプレゼン、広告の場で有効に機能します。見た目の派手さではなく、“納得させる力”としてのインフォグラフィックは、今後の映像表現の中心の一つになるかもしれません。

地元密着型に効く“通勤路紹介動画”という提案

企業紹介動画といえば、社長メッセージ、オフィスツアー、事業内容の紹介…。そんな定番構成に慣れた今、あえて通勤路だけを映した動画があります。
単に駅から歩くだけ、街角を曲がるだけの映像ですが、そこに社風や働き方の空気感が自然と表れるのです。なぜなら、「働く場所の周辺環境」は、社員の時間の半分以上に関わってくるから。
会社を取り巻く「風景」は、数字では表せない価値を持っています。

「その街に通う」ことの意味を伝える採用戦略

採用動画のゴールは、「ここで働きたい」と思わせること。
実はその感情の大部分は、「仕事の内容」よりも「日々の過ごし方」によって形成されます。通勤路紹介動画は、「職場の前にあるパン屋の香り」「曲がり角で交わす地元の挨拶」など、小さなエピソードの積み重ねを通して、暮らしと仕事が地続きであることを伝えます。
地元志向の強い求職者には、特に響くコンテンツです。

撮影のポイント:「風景」を主人公にする

演出過多な動画は、かえって逆効果。通勤路紹介動画に必要なのは、派手な編集やBGMではありません。
・スマホ目線で歩く
・街の音を拾う(電車の発車音、鳥のさえずり)
・過剰に社員を映さない
このような静かな演出が、「いつもの街の空気」を切り取ります。ナレーションは日常語で十分。「ここを毎朝通って、今日も1日が始まります」――それだけで、十分伝わります。

地方企業・中小企業にこそ向いている理由

大企業ほどブランドが強くない中小企業にとって、「立地」や「街の雰囲気」は大きな差別化要素になります。
特に、都市部ではなく地方にある企業では、「わざわざ働きに行く価値」をどう見せるかが重要になります。
そのため、「この街で働けること自体が魅力である」と感じさせる動画の意義は非常に高いのです。

以下は、地方企業が伝えるべき通勤路要素の例です

要素 伝えられる価値
通勤時の風景 季節感・自然との距離感
地元の店や人 地域とのつながり
交通手段 アクセスの良さ・働きやすさ

SNS時代との相性:長尺ではなく“歩き出す15秒”で十分

通勤路動画は、1分も要りません。最も伝わるのは、駅から会社まで歩き始める「最初の15秒」。
SNSではその短尺こそが再生され、繰り返し見られるフックになります。
たとえば、「月曜の朝、少し肌寒い空気を吸いながら駅を出る」といった情景に、心が動く人もいます。感情ではなく、感覚に訴える素材として、静かながら力を持つのです。

企業の個性や価値観を「日常の風景」で伝える。それが、通勤路紹介動画の最大の意義です。とくに地域に根ざした企業ほど、このアプローチは相性が良く、過度な演出をせずとも“働く実感”を伝えられます。
採用動画における差別化が難しくなっている今だからこそ、「毎日の通勤」という当たり前の時間に焦点を当ててみてはいかがでしょうか。

成果よりも“続けた痕跡”が響く|「#今日の一歩」動画が生んだ信頼のかたち

SNS上には、目を奪う成功事例や劇的なビフォーアフターが溢れています。
しかし、現実の仕事はその多くが地道な積み重ね。日々の努力や挑戦が可視化されにくいからこそ、「この会社は本当に動いているのか?」という疑念すら生まれかねません。

そこで、“プロセスを切り取って見せる”発信です。結果ではなく進行中の姿。完成形ではなく途中経過。こうした「動き続けている証拠」が、じわじわと信頼につながっていきます。

「#今日の一歩」という企業発信の新しい単位

1日の進捗や小さな気づきを15秒程度の動画にまとめて、SNSに「#今日の一歩」として毎日投稿するという取り組み。
たとえば「新しい機材の初期設定が完了」「営業資料の一部をアップデート」など、成果とは言えないが、たしかに進んでいる様子を動画で見せるのです。

特徴は以下の3つ

項目 内容
動画時間 10~15秒程度
投稿内容 当日の進捗、小さな改善、学びなど
表現スタイル テロップ+BGM(語りなし)

続けるほどに、「この会社、ちゃんと動いてるな」という“蓄積”が可視化されていきます。

なぜ小さな一歩が信頼につながるのか?

人は「自分ごとに引き寄せられる」傾向があります。
大きな成果よりも、「わかる、その地味さ」「うちの会社もこういう日あるよな」と共感できる瞬間のほうが、記憶に残るのです。

また、動画という形を取ることで、「実際にその日、その場所で、誰かが動いていた」という“確かさ”も伝わります。文章では曖昧になりがちな現場感が、動画なら一目で伝わるのです。

続けるための工夫は「ルール化」と「軽量設計」

毎日投稿するには継続可能な設計が必要です。そこで、以下のようなルールを決めればいいでしょう。

  • 撮影・編集は1人の担当者が15分以内で完結
  • 毎週月曜に5日分の素材を撮りためる
  • 編集テンプレートを用意し、構成を固定化

これにより、負担を最小限にしながら“続けること”を最優先に据えた運用が可能になりました。

成果は追わない。でも信頼は残る

このSNS動画実験には「いいね数を追わない」なくていいでしょう。
KPIは「社外の誰かが、その会社の“動き”を知ること」。
結果的に、「SNS経由での採用応募」「取引先からの共感メッセージ」など、副次的な反応が少しずつ生まれるでしょう。

つまり、成果は後からついてくる。
最初から成果を求めるのではなく、「動いている会社」という印象を積み重ねることが、真のブランディングにつながるのです。

いま求められているのは、劇的な成果ではなく、“動いている証拠”です。

15秒の「#今日の一歩」動画という試みは、小さな進捗でも発信を続けることで、企業への信頼を少しずつ積み上げていきます。
SNSを使った企業動画の形も、「見栄え」ではなく「積み重ね」にシフトしています。派手ではない。でも、見る人にはしっかり伝わる。そんな地道な実験こそ、いまの時代に最もフィットした動画戦略かもしれません。

実績紹介はいらない?動画に必要なのは“迷った理由”だった

これまで多くの企業動画は「成果」や「実績紹介」にフォーカスしてきました。製品の導入数、顧客満足度、受賞歴など、定量的な成果は信頼性を高めるために欠かせない要素とされてきました。しかし、視聴者がそれに「共感」しているかと問えば、答えはNOかもしれません。近年は数字ではなく、その裏側にある“なぜそれをやったか”“どう迷い、どう決めたか”といった「背景」に価値を見出す視聴スタイルへとシフトしています。

「語る勇気」が共感を生む

このような変化の背景には、SNSやYouTubeなどでの“等身大の発信”文化があります。たとえば、企画がうまくいかなかった理由や、チーム内で意見が割れた葛藤などをあえてオープンに語る姿勢に、視聴者は親近感を覚えます。「完璧」な成果よりも、「不完全」なプロセスの中に自分を重ねられるポイントがあるためです。こうした姿勢を映像で表現するには、“失敗や迷いも含めて語る場”を設けることが重要です。

「背景だけ語る動画」は何を映すか?

では、“背景だけ”を語る動画はどのように構成すべきでしょうか?成果物やプロジェクトの最終結果を映さないという前提で考えると、以下のような要素が中心になります。

映像構成要素 内容例
座談会形式 社員同士で、当時の本音や迷いを語る
メモやホワイトボード 実際の議論で使われた思考の痕跡を映す
オフショット 会議前後や休憩時間のやりとりなど自然なやりとり

これらはすべて、視聴者が「これは作られたものではない」と感じる空気を生み出します。

 “座談会形式”の可能性と工夫

特におすすめなのは、社員による座談会形式の動画です。ただ座って話すだけでは退屈に見える可能性もあるため、「テーマの切り方」や「編集の緩急」が鍵となります。

例:

  • 「あのとき、一番悩んだポイントは?」
  • 「実は反対していたけど、なぜ今は納得しているのか?」

こうした問いかけがあると、発言が深まり、視聴者も思考のプロセスを追体験できます。なお、BGMは控えめにし、間の「沈黙」や言葉に詰まる瞬間もカットせずに残すことで、リアルな空気感を醸し出せます。

どんな企業が向いてるか?

このような「背景にフォーカスした動画」は、特に以下のような企業に適しています。

  • 採用強化を狙うベンチャー企業(組織の価値観を重視)
  • ブランディングを重視する中堅企業(思想や哲学を伝えたい)
  • 顧客との関係性を深めたいBtoB企業(表層的でない理解が必要)

これらの企業では、数字以上に「考え方」や「文化」が選ばれる理由になります。

成果や実績を強調する動画は、これからの時代では“刺さりにくい”傾向が出ています。代わりに注目されているのが、「なぜやったか」「どう考え、どう迷ったか」を丁寧に語る映像。とくに社員同士の座談会形式で、当時の気持ちや判断の背景を共有する動画は、共感や理解を深める手段として有効です。数字で測れない企業の“温度”を、視聴者にそのまま届けてみませんか?

二代目企業のための“継ぐ想い”を形にする動画

創業者の強烈リーダーシップや理念に支えられていた企業が、代替わりすると“何を語るべきか”迷いがちです。
特に動画となると、カメラの前で話す人物の説得力や表情が大きく影響するため、創業者不在の企業では「誰を出せばいいか分からない」という声が多く聞かれます。

これは決して「語れる人がいない」のではなく、「語り方の軸を見失っている」状態。
重要なのは、“先代が築いた価値をどう受け継ぎ、何を現代の言葉で伝え直すか”という再解釈です。

 “人”を見せるのではなく、“姿勢”を見せる

創業者が登場しないからこそ、主役は“企業としての振る舞い”になります。
動画では社長や役員のインタビューだけでなく、日常の仕事風景や、社員同士の関係性、地域とのつながりなどに注目すると、企業が持つ空気感や文化が浮き彫りになります。

特に以下のような視点が効果的です:

視点 映像での表現方法
継承の意識 旧工場の一部を残している、昔の看板など
地域との関係性 地元イベントや祭りに参加している様子
日常のリアルさ 朝礼や掃除の様子など、飾らない日常

こうした要素が積み重なることで、“この会社は地に足がついている”という印象が自然と生まれます。

伝統と革新を分断せずに並列で見せる

多くの企業動画では「過去の紹介→未来への展望」という時間軸で構成されがちですが、代替わり企業では“伝統と革新を同時に語る”ことがポイントになります。

たとえば、創業当時から守っている製造工程と、現在取り入れているDX(デジタル化)の取り組みを交互に見せる構成にすると、“守るべきものと変えるべきもの”のバランスが視覚的にも伝わります。

「個人の思い」ではなく「共同体の継承感」を重視する

創業者がいない動画で陥りがちなのが、「現社長の自己紹介動画」になってしまうこと。
これでは社内向けには通じても、外部には響きません。

重要なのは、“会社としての総意”や“共同体としての想い”を拾い上げること。
複数の社員の声や、家族経営であれば親族の思い出などをつなぐことで、「一人ではなく、皆で受け継いでいる」という印象を与えることができます。

「熱量」よりも「地道な信頼感」で心を動かす

創業者のように強いパーソナリティを持たない場合は、感情的な演出に頼らず、「地に足のついた安心感」で魅せる動画を目指しましょう。
派手なBGMやカット割りではなく、丁寧なナレーションと、ゆったりとした編集テンポが効果的です。

特に、工場・作業現場・地域との関係性など、言葉にしづらい「誠実さ」がにじみ出る映像素材があれば、無理に演出せずとも伝わる動画になります。

代替わりした企業は、個人の熱量よりも、企業としての“積み重ね”や“信頼感”を可視化することで、見る人の心に響く動画を制作できます。
飾らず、派手さも必要ありません。むしろ、真摯に続けてきた歴史の断片を一つひとつ拾い集めていくことが、最も強いメッセージになるのです。