かつて動画の主役は「驚き」や「感動」でした。しかし今、SNSで再生数を稼いでいるのは、むしろ“何気ない日常”を切り取った動画です。たとえば、ただ料理を作る様子や猫が寝ているだけの動画。そこに起承転結はありません。視聴者は今、刺激よりも「そこにある空気感」を求めているのです。
情報過多な社会が生んだ「静かな視聴ニーズ」
スマホを開けばニュース、広告、エンタメが大量に流れ込んできます。1日で触れる情報量は、江戸時代の人の一生分とも言われる時代。そんな環境に疲れた人々が、ほっとひと息つけるのが「動きすぎない動画」です。感情を揺さぶられない、でも目が離せない。そうした静かな動画が“癒やし”として受け入れられています。
「日常の動画」が与える親密感と信頼
日常動画の強みは、視聴者との距離感です。たとえば、台所で湯気が上がるだけのカットに、温度や生活の匂いが感じられます。これは「自分の生活」と地続きであるという感覚を呼び起こします。商品紹介や企業PRでも、こうした“特別じゃない映像”を意図的に差し込むことで、押しつけ感のない伝わり方が可能になります。
コンテンツ制作は“非演出”も武器になる
企業動画やプロモーションというと、どうしても「派手」「目立つ」方向に寄りがちです。しかし今の時代、それが逆効果になるケースもあります。あえて“演出をしない”動画。社員の何気ない仕事風景や、オフィスの朝の風景などが、かえってブランドの素朴さや安心感を伝えます。「なにげない」は、強い。今、コンテンツ制作で見直されるべき視点です。
「何も起きない動画」がバズる背景には、情報疲れと親密さへの欲求があります。視聴者はドラマより、生活の延長にあるものに惹かれ、共感を寄せています。企業としては、あえて演出を抑えた映像で、人間らしさやリアルを映すことが、ブランドの信頼構築につながる時代。湯気が立ちのぼるだけのシーンにも、人は意味を感じる。動画の本質が、静かに変わり始めています。