SNSや動画の世界では「エモい」という言葉が溢れていました。感情を強く揺さぶる音楽、泣かせる構成、美しい風景。けれど今、その「わかりやすさ」が逆に陳腐化してきています。
視聴者は「泣かせたい」「感動してほしい」と押しつける演出に敏感になり、過度な演出に冷めてしまうことも。共感を呼ぶには、もっと静かで、余白のある表現が求められています。
共感されるのは“曖昧さ”を残した映像
最近注目されているのが、「完璧に整いすぎていない映像」です。ピントが少し甘い、言葉が聞き取りにくい、光が白飛びしている──そんな“未完成さ”が、むしろ本物っぽさを感じさせます。
これは、視聴者が自分の感情を映像の中に重ねる余地があるからです。すべてを説明せず、少し手前で止めておくことで、かえって深く刺さる。これが、いま注目される「透け感」ある演出の本質です。
「透け感」とは何か?具体的な演出方法
「透け感」という言葉は抽象的ですが、以下のような映像演出が該当します。
技法 | 内容例 |
ソフトフォーカス | 全体をぼかして雰囲気を優先する |
アウトラインの曖昧さ | 背景と人物の境界を明確に描かない |
ナレーションなし | セリフや説明なしに雰囲気だけで魅せる |
生活音だけの構成 | 音楽を使わず、環境音だけで世界観をつくる |
これらの技法は、意図的に情報量を絞ることで「見えそうで見えない」「伝わりそうで伝えきらない」というバランスを生み出します。
演出の“引き算”がもたらす余韻
演出を足すのではなく、あえて引くこと。それにより、見る側の想像力が働きます。例えば、映像内で登場人物が泣いているシーンで、理由を明かさない。その“間”にこそ、見る人それぞれのストーリーが立ち上がるのです。
「透け感」は、没入感ではなく“入り込みすぎない距離感”を生みます。視聴者はその余白に自分の感情を投影できるため、長く記憶に残るのです。
今後の動画制作における「透ける表現」の役割
ブランディングや商品紹介でも、すべてを伝えようとしない演出が求められるようになっています。ブランドの“らしさ”を言語化せず、世界観として漂わせる。そのとき重要なのが、「透ける」ような映像設計です。
もちろん、すべての動画に適用できるわけではありませんが、特に若年層向けや感性を重視したコンテンツでは、こうした演出手法が今後ますます重要になるでしょう。
かつて“エモい”がもてはやされた時代から、いま動画表現は「透け感」へと移行しています。
見せすぎず、語りすぎず、情報を少しだけ残すことで、視聴者が想像する余地を持たせる。
この曖昧さが、コンテンツへの共感や滞在時間に繋がっているのです。映像をつくる側としては、「強い感情を与える」よりも「感情がにじむ空間を用意する」発想が、新しい共感の形になるかもしれません。