顔出し不要、でも本音が伝わる。“手”で語る動画の力

これまで企業動画では、社員の顔や言葉を前面に押し出すことで「人となり」を伝えることが主流でした。しかし今、あえて顔を映さず、「手」だけにフォーカスする動画があります。キーボードを打つ指、工具を握る手、盛り付ける動き。視聴者は、表情のない映像からも、その人の集中、緊張、熟練といった空気を感じ取っています。これは、感情を押しつけず“観る人に委ねる余白”があるからこそ生まれる伝達です。

なぜ「手元」が説得力を持つのか?

手の動きには「慣れ」と「迷い」がそのまま出ます。つまり、どれだけその仕事に向き合ってきたかが可視化される部位でもあるのです。たとえば、医療現場で注射器を扱う手、配線を整えるエンジニアの手、カフェでラテアートを描くバリスタの手。これらは台本では再現できない、経験の蓄積そのものです。情報を過剰に語らずとも、リアリティが画面から自然と伝わる。それが「手元動画」が支持される理由です。

 “顔出しNG”時代の新たな表現方法

プライバシー意識の高まりや、社員本人の「顔を出すことへの抵抗」も、背景にあります。だからといって、動画による企業ブランディングを諦めるのはもったいない。「手元だけを映す動画」は、被写体の負担を減らしながら、職種の魅力や空気感を伝える新しい選択肢です。図のように、顔を出す動画と比べて撮影の心理的ハードルも下がるため、現場のリアルな声を集めやすくなります。

【図:動画スタイル別・出演者の心理的ハードル】

表現方法 撮影負担 本音の引き出しやすさ
顔出し動画 高い やや難しい
ナレーション動画 中程度 中程度
手元だけ動画 低い 非常に引き出しやすい

共感を呼ぶのは「うまさ」ではなく「想い」

スムーズな手さばきだけが魅力ではありません。むしろ、少しぎこちなさの残る動き、慎重さ、ためらいこそが、動画を見る人の心を動かします。「この人も、迷いながらやっているんだ」「丁寧に向き合っているんだ」という気配が、受け手に伝わるのです。テキストやナレーションでは補えない“身体の語り”が、今の時代の信頼感につながっています。

実践アイデア:60秒の「手の記録動画」

では、どのような動画が企業にとって効果的でしょうか。たとえば「今日の1作業だけを映す60秒」。社員一人ひとりに、作業の一部を撮ってもらい、その動画をつなぎ合わせる形式です。映像に音楽やナレーションを加える必要はありません。キーボードの音、工具の金属音、食材を切る音…仕事の音だけで充分です。それだけで、その職場に流れる時間と集中の空気が伝わります。

顔を出さずに、企業のリアルを伝える。そんなニーズの中で、「手元」にフォーカスした動画があります。手の動きは、スキルや習熟度、さらにはその人の思いまでも映し出す鏡です。社員の心理的負担も少なく、現場の日常を切り取る手段として非常に有効です。特別な編集技術や演出ではなく、“手の記録”から始める映像表現。これが、今後の企業動画の新しいスタンダードになるかもしれません。

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