「北へ30分」。それだけを頼りに始める撮影旅。目的地は決めず、ただコンパスと時計を持って歩き出す。実際にやってみると、意外なほど発見に満ちている。「意外に商店街があった」「高速道路で行き止まりになった」「住宅地がずっと続いた」など、撮る側の想定を軽やかに裏切ってくれるのがこの手法の魅力です。
表:方角×時間で見えるロケーション傾向(例)
方角 | 歩行時間 | たどり着くエリアの傾向 |
北 | 30分 | 高台、住宅街、公園が多め |
南 | 30分 | 商業地、川沿いの遊歩道 |
東 | 30分 | 工場地帯や郊外エリア |
西 | 30分 | 古い街並みや神社が残る地域 |
“決めない”ことで得られる映像のリアルさ
ロケーション撮影では、事前に場所を選定し、絵コンテ通りに進行するのが一般的。しかし、「方角だけ」に任せた動画には、その場の音、空気、人の動きがそのまま映る。これが、見る人に妙なリアルさや共感を与えます。
とくにおすすめなのは、徒歩中に現れる人々の営み。洗濯物を干す人、公園で遊ぶ親子、犬の散歩…まったくの“素人出演者”が、映像に抜群の自然さを与えてくれます。
偶然の一致が感動になる編集構成
素材をつないでいくと、意図せず「物語」になっていることが。たとえば、最初は人気のない一本道でも、終盤に突然祭囃子が聞こえてきたり、曲がり角で満開の桜に出会ったり。編集時には、ナレーションを足さず、テロップと環境音だけで構成するのも効果的ですね。
偶然起こったことが、結果的に「構成」に見える。それは、視聴者に「これは何かの縁かも」と思わせる力を持っています。
企業動画やPRにどう活かせる?
一見、個人のVlog向けに思えますが、実は企業のブランドムービーにも応用ができます。たとえば、社員が本社を起点に“東へ20分”を歩いた先にある町の風景を記録することで、「この会社がある地域の空気感」を伝えられます。
とくに地域密着を謳う企業や、採用活動で地元愛を打ち出したい場合には、「方角だけ旅」が効果を発揮するかもしれません。
撮影と編集の実践ポイント
- 撮影時の工夫
スマホのコンパス機能とタイマーを使えば、特別な機材は不要。GoProや360度カメラを使うと臨場感が増す。 - 歩きながらの音声記録
あえて一人でつぶやきながら歩くと、視聴者はその感情に寄り添いやすくなる。 - 編集での工夫
テロップは最小限。環境音を活かすためBGMも控えめに。ラストには「次は南へ30分」と続編を匂わせる終わり方が理想。
「方角と時間」だけを頼りに歩き続ける動画は、撮る側にとっても見る側にとっても、“計画された偶然”という新鮮な驚きをもたらします。都市の変化や人の営みが、まるで自分の選択で現れたかのように思えてくるのです。個人のVlogに限らず、企業の地域PRや採用ブランディングにも応用可能な手法として、「方角だけ探訪動画」は今後注目すべきコンテンツフォーマットといえるでしょう。