多くの企業がWebサイトに動画を導入しています。確かに動画は魅力があり、ユーザーの注意を引きやすいメディアです。しかし、すべての情報やコンテンツが動画に適しているわけではありません。読み飛ばしやすさ、情報の即時取得、軽快な表示速度など、静止画やテキストの方が優れている場面も多々あります。まずは「動画が正解」という先入観を見直すことが重要です。
情報密度の違いが与えるUX
動画と静止画では、ユーザーが得られる情報の“密度”が異なります。以下の比較表をご覧ください。
メディア | 情報の即時性 | 理解の速度 | 読み飛ばし可否 | UX適合例 |
静止画 | 高い | 速い | 可能 | 商品概要、サービスの特徴紹介 |
動画 | 中程度 | 時間がかかる | 難しい | 使用方法、空間の雰囲気紹介 |
静止画は情報を一瞬で把握できる点で優れており、忙しいユーザーにも親和性が高いです。一方、動画は「理解に時間をかけること」が前提となるため、導線設計を間違えるとユーザーが離脱する要因にもなります。
ファーストビュー設計における判断軸
ファーストビュー(ページを開いた直後に見える範囲)では、1秒単位で印象が決まります。ここで動画を使うと、再生待ちや通信の遅延が発生し、逆効果になることも。特にモバイルユーザーはデータ通信量にも敏感です。
<ファーストビューにおける判断軸>
- 表現したい内容は「瞬時に伝わるもの」か?
- 表示速度を犠牲にしてでも、映像的な臨場感を優先したいか?
- ユーザーに「動画を観るモード」であることを期待して良いか?
これらに「NO」が含まれるなら、静止画での構成を検討すべきです。
動画と静止画の住み分け方
静止画と動画は、対立するメディアではなく、役割を分けて使うことで真価を発揮します。
<静止画が適しているケース>
- サービスの特徴・料金・導入メリットなど、比較的静的な情報
- ファーストビューやアイキャッチ部分
- UXの導線を妨げたくないシーン
<動画が適しているケース>
- 操作方法・施設紹介・インタビューなど「動き」が重要な情報
- 滞在時間が長くてもよい詳細ページや下層ページ
- サービスのストーリー性を補足するシーン
このように、サイト全体の構造に応じて最適なメディアを選択することが、成果につながります。
実装時の注意点と改善アプローチ
動画を掲載する場合は「再生タイミング」「音声の有無」「ファイル容量」などの調整が不可欠です。特に、自動再生動画はユーザーにとってストレスになりやすいため、音なし・短尺・軽量形式が基本です。
一方、静止画に頼りすぎると「動きのなさ=情報が古そう」という印象にもつながるため、部分的にアニメーションGIFやパララックス効果を組み合わせるのも有効です。重要なのは、見た目の派手さではなく「何を、どのように届けるか」という設計思想です。
Webサイトにおいて、動画と静止画は「どちらか一方」が正解なのではなく、目的や情報の性質に応じた適切な使い分けが重要です。ファーストビューでは表示速度と情報即達性を重視し、詳細な説明や空間の紹介には動画を活用する、といったバランスが求められます。“あえて動画にしない”という判断も、ユーザー体験を最大化するための立派な戦略なのです。